昨年度までの研究から、マウス網膜OFF型コリン作動性アマクリン細胞特異的なP2X2型プリン受容体の発達は開眼後に起こることが明らかとなった。またP2X2型プリン受容体の生後発達パターン形成は、幼弱期の明暗サイクルによる可塑的な影響は受けないものであることが明らかとなった。このことはP2X2型プリン受容体の生後発達パターンが、遺伝子レベルでプログラムされているものであることを示唆している。しかしながら、明所飼育時には親マウスが授乳している時に影ができる可能性がある。また暗所飼育時には給仕等のため赤色光(マウスは感知できないと考えられている)を使う必要があり、赤色光をマウスが感知している可能性が排除できない。そこで明所視に関与する錐体視物質のアイオドプシン遺伝子、暗所視に関与する桿体視物質のロドプシン遺伝子、明暗の感知に関与するメラノプシン感受性網膜神経節細胞視物質のメラノプシン遺伝子の3つの遺伝子をノックアウトしたマウスを、ジョンスホプキンス大学のK.W.Yau博士から譲渡していただき、このマウスを使ってP2X2型プリン受容体の発現パターンを検討した。このマウスは全ての視物質を欠いており、生後一切の視覚入力がないことが確認されている。このノックアウトマウスを用いた免疫組織化学的検討から、視覚入力がまったく存在しなくとも生後8週令の時にはOFF型コリン作動性アマクリン細胞特異的なP2X2型プリン受容体の発達が開眼後に起こることが明らかとなった。以上の実験の結果から、P2X2型プリン受容体の生後発達パターンは遺伝子レベルでプログラムされているものであると結論した。
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