神経細胞間で営まれるシナプス伝達の異常は個体レベルでどのような異常(病態)として表現されるかを明らかにすることを最終目標とした。そのために正常な状態で備えられている機能の解明と、その知見を応用することによって、病態の理解、治療方法の開発に貢献することが出来ると考えた。 本研究は小脳皮質に焦点をおき、発達障害性疾患である自閉症の病態理解に貢献できる研究を目指した。これまでの我々の実験でセクレチンによるGABA放出増強作用が小脳皮質において、不均一に起こり、その規則性もつかめないままであった。具体的に発達変化や小脳小葉依存的な差異を検討したが、有意な差を認めることが出来なかった。しかし、新たな知見として、小脳皮質GABA作動性介在神経細胞の神経終末において、cAMP-PKA系シグナル伝達以外に脂質代謝を介したIP3産生とそれに続く細胞内Ca2+上昇を示す結果を得た。すなわち、他研究機関による報告ではPKAによるリン酸化がシナプス増強作用に重要だとされてきたが、PKA阻害薬存在下でもGABA放出増強作用を有することを認めた。また、Ca2+-ATPアーゼ阻害薬によりセクレチンのGABA放出増強作用が有意に抑制されたことから、神経終末におけるCa2+小胞からのCa2+放出がGABA放出増強作用に関与している考えた。これらの結果は、既知のセクレチンを介する情報伝達経路と異なる、新たなシナプス修飾作用の可能性が示された。また、神経終末部における何らかのタンパク質発現の不均一性がシナプス修飾作用の不均一性を説明する可能性を考えて、さらなる神経軸索上の責任部位を同定する必要がある。
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