この研究の目的は、蛍光蛋白質をもとに蛋白質でできた「赤色光励起により赤色蛍光を発する」カルシウムセンサーを開発することである。H23年度は、まず我々が開発した緑色カルシウムセンサー蛋白質であるG-CaMP2のGFP円順列変異体ドメインをRFPの円順列変異体で置換して赤色センサーのプロトタイプを作製し、このプロトタイプにランダム変異導入を行った上で高性能なセンサーの探索を進めた。その結果、蛍光変化量の大きなセンサーを見出すことに成功した。このセンサー(R-CaMP)はG-CaMP2よりも高いカルシウム感受性を示したため、微弱な神経活動の検出に応用できることが予想された。そこでラットの海馬スライスを作製してCA3神経細胞にR-CaMPを発現させ、電流注入により人為的に活動電位を誘発させた。蛍光イメージングを行った結果、開発したR-CaMPが1発の活動電位に対応した微弱な細胞内カルシウム濃度変化を検出可能であることが明らかになった。R-CaMPの発現により神経細胞の電気生理学的性質が変化するかどうか確かめたが、神経細胞の電気的性質にはほとんど変化は見られなかった。また近年汎用されている光活性化非選択性陽イオン透過性チャネル蛋白質であるチャネルロドプシン2と共にR-CaMPを同一の神経細胞に発現させたところ、チャネルロドプシン2の光刺激によって人為的に誘発された1発の活動電位による微弱なカルシウム濃度変化をR-CaMPが検出可能であることが明らかになった。上記のように、本研究で開発された赤色蛍光カルシウムセンサー蛋白質R-CaMPは蛍光変化量が大きく高感度であるため、神経活動の検出にきわめて有用である。
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