筋ジストロフィーニワトリの原因遺伝子は長い間不明であったが、分担研究者の万年らがこれを同定し、WWP1と呼ばれるHECT型E3ユビキチンリガーゼに1アミノ酸変異が生じていることを明らかにした。この筋ジストロフィーは優性遺伝であるため、変異はドミナントネガティブ効果で正常なWWP1機能を抑制している可能性がある。そこで我々はこの分子機構を明らかにする目的で筋ジストロフィーニワトリと同じ変異型WWP1を発現するトランスジェニック(Tg)マウスを作製し、組織学的及び生化学的解析を行った。 本年度は高齢のTgマウス筋線維内に認められる空胞と雌雄の関連を調べるため、1年齢以上の高齢マウス作出して解析を進めた。遺伝子改変を行ったC57BL/6マウスは野生型であっても高齢の雄にはtubular aggregate様の空胞が出現するが、今回我々は1年齢から2年齢の雌個体を作出したところ、そこでも筋線維内に空胞が確認された。また、培養細胞やTgマウスの筋肉を用いた生化学的、細胞生物学的解析において、変異型WWP1の多くは分解され、元来110kDaであるはずのものが約80kDaの小分子となることが分った。この分子はカルボキシル基端領域を欠失し、標的分子には結合するがE3リガーゼの機能を有さない可能性があり、正常型WWP1と競合することで基質のユビキチン化を抑制することが考えられた。更にジストログリカンとの関連について解析したところ、両者間の結合は認められなかったため、これがWWP1の基質ではないと推察された。 「1残基のアミノ酸変異が分子の分解を亢進してその産物が正常分子の機能を抑制する」という、本研究から得られた仮説はユニークなものであり、筋ジストロフィーの病態解析に新たな視点をもたらすだけでなく、WWP1に類似した多くのHECT型E3リガーゼの制御機構を考える上で大きな意義を持つものと考えられる。
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