膣内細菌叢は、腸内細菌叢と同様に病原微生物に対する感染防御的役割が存在するとの考えから近年実験動物を用いての証明が試みられている。しかし、実験動物の膣内細菌叢に関する基礎的データが極めて少ないことから、研究内容にあった最適な実験動物の選定が難しい状況にあった。そこで、各種実験動物(霊長類を含む)の正常膣内細菌叢の構成を定量的に明らかにすることを目的とした。まず、膣内細菌叢の検体を採取してから培地に塗抹するまで長時間を要する場合があることから検体の輸送方法について検討した。その結果、膣内を滅菌生理食塩水で洗浄した検体を嫌気性輸送培地(規定の2倍濃度に調製)に等量混合し氷冷保存するという方法により、検体採取12時間後までは採取直後の培養成績とほぼ同等で全く問題ないことが確認された。そこで、この方法を用いて、カニクイザル等の3種類の霊長類の膣内細菌叢の検索を試みた。今回はこれらの霊長類の膣内細菌叢の構成を把握することに主眼をおいたため、各々7頭の性成熟したサルを対象として性周期を考慮せず無作為に1回だけ検体を採取し培養を行った。その結果、カニクイザル及びマーモセットの膣内におけるlactobacilli(ヒト膣内での最優勢菌)の分離菌数は、10^<3.5> (CFU/vagina)及び検出限界以下と低いことから、これらの霊長類の膣内にはlactobacilliは優勢菌種として存在していない可能性が強いことがわかった。一方、アカゲザルの膣内からは10^<6.0> (CFU/vagina)と高い菌数のlactobacilliが分離されたことから、アカゲザルの膣内細菌叢はよりヒトに近い構成である可能性のあることが示唆された。したがって、今後さらにアカゲザル等の霊長類の膣内細菌叢を詳細(性周期及び年齢別等)に調べることにより、これらの霊長類のヒト膣内でのlactobacilliの役割を研究するためのモデル動物としての可能性を明らかにする予定である。
|