【目的】膣内細菌叢は、腸内細菌叢と同様に感染防御的な役割を果たしていると考えられているが、各種実験動物の膣内細菌叢についてはほとんど明らかにされていないため、現在ヒトの膣炎の感染モデルとしての最適な動物種の選定さえできない状況にある。そこで、ヒトにより近縁で、解剖・生理学的にもヒトとの類似点の多い霊長類に着目して、その膣内細菌叢の検索を行った。【材料及び方法】鹿児島県の(株)新日本科学あるいは東京大学医学研究所奄美病害動物研究施設で維持されているカニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセット、リスザルおよびヨザル、各々6~7匹の性成熟した雌を用いた。検体は、滅菌生理食塩水を用いた膣洗浄法により無作為に1回採取し、膣内細菌の培養および同定は光岡らの腸内細菌叢検索法に準じた方法を用いて行った。【結果及び考察】総分離菌数および分離菌種数は、カニクイザル>アカゲザル>リスザル>ヨザル>コモンマーモセットの順に高かったことから、膣内細菌叢はカニクイザルが最も複雑で、アカゲザルおよびリスザルが中程度、ヨザルおよびコモンマーモセットは非常に単純であることが明らかとなった。また、ヒトの膣内で非常に重要な役割を果たしていると考えられるlactobacilli(乳酸菌)について、アカゲザルでは分離頻度はそれほど高くなかったものの分離菌数はヒトやチンパンジーと同様に高い値を示していたことから、今後さらに詳細な検討を行うことにより、ヒト膣内におけるlactobacilliを研究するためのモデル動物としの有用性について検討する必要があると考えられた。以上のように、膣内細菌叢はマウス・ラット等の実験動物の動物種ばかりでなく、霊長類の種類によっても異なることが示唆された。今後さらに原始的な原猿類やそれから進化した真猿類に属する霊長類の膣内細菌叢を調査することにより、膣内におけるlactobacilliの系統発生学的な起源についても検討したいと考えている。
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