研究概要 |
【目的】ヒトの膣内には乳酸菌を代表とする膣内細菌叢が形成され、腸内細菌叢と同様に感染防御的役割を果たしていると考えられている。そこで、ヒト膣炎の感染モデルとしての霊長類の有用性を明らかにするため、ニホンザルの膣内細菌叢について検討を加えた。また、膣内細菌叢の検索に近年頻用されているFISH(Fluorescence in situ hybridization)法について、その信頼性を培養法と比較検討した。【材料・方法】京都大学霊長類研究所で維持されている3~21歳の雌15頭のニホンザルについて、膣洗浄法を用いて膣内細菌の検索を行った。FISH法の信頼性の検討は、Escherichia coli(ATCC25922株)およびLactobacillus spp.(SPFラット糞便由来株;Lact)の2菌種を増菌用液体培地に接種し、一定時間(0~96時間)培養した菌液を培養法とFISH法により定量的に測定することにより行った。【結果・考察】規則的な月経周期が観察された11頭の膣内細菌叢の成績を解析したところ、ニホンザルの膣内からは5種類の通性嫌気性菌(Enterobacteriaceae, Streptococci, Staphylococci, Corynebacteria, Lactobacilli)及び4種類の嫌気性菌(Bacteroidaceae, Veillonellae, Gram-positive anaerobic cocci (GPAC), Gram-positive anaerobicrods)が分離された。そのうちStreptococci, Corynebacteria, Bacteroidaceae及びGPACは80%以上の個体から分離され、かつ分離菌数も高かったことから、これらの菌種がニホンザルの膣内における主要な構成菌種であることが示唆された。Lactobacilliの検出率は56%と中程度であったが、分離菌数は10^<5.4>(CFU/vagina)とチンパンジーの場合と同様に比較的高い値を示していた。また、分離された膣内総菌数を月経周期別(卵胞期、黄体期及び月経期)に分けて比較したところ、エストロゲン濃度が高くなる卵胞期で最も高くなる傾向を示した。これまでに得られた成績から考察すると、霊長類の膣内細菌叢は、チンパンジー>ニホンザル>カニクイザル>アカゲザル>リスザル>ヨザル>コモンマーモセットの順に複雑な構成であり、霊長類の膣内細菌叢に共通する普遍的な主要な菌種はStreptococciであること、またチンパンジーやニホンザルといった霊長類の膣内細菌叢もマウス・ラットと同様に性ホルモンであるエストロゲンの影響を受け変動することが示唆された。FISH法の信頼性の検討では、E.coliの場合はFISH法と培養法との間に大きな差はみられなかったが、Lactでは96時間培養後の検体においてFISH法が培養法より約100倍程度高い値を示したことから、検査の対象とする細菌の種類によってはFISH法と培養法との間に差がでる可能性のあることが明らかとなった。したがって、膣内細菌叢の検索にFISH法を用いる場合は培養法との併用が望ましいと考えられた。
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