がん抑制遺伝子p53は、多くのがん細胞において機能が低下しており、成人T細胞白血病(ATL)患者においてもみられる。がん患者のおおよそ50%はp53に変異がみられ、機能低下の一因と考えられる。一方、ATL患者では通常のがんに比較し、その変異は半分である。 我々が作製したHTLV-1Taxを発現するトランスジェニック(Tg)マウスにおいては、ATLに似たT細胞白血病を引き起こすが、p53の変異は観察されていない。ATLにおける変異以外のp53機能低下の機構としては以下の2つの仮説がある。 1HTLV-1 Taxによるp53のCBPへの会合に対する競合阻害。 2Taxがp53セリン15(マウスでは18)のリン酸化を誘導し、NF-κB p65/RelAとの機能的に不活化された複合体の形成を促進。 前年度の検索により、Tax-Tgマウスでみられる機構はこれら以外であることを明らかにした。Tax-Tgマウスでは、DNA損傷においてp53の誘導、安定化がみられない。このことは、p53経路の上流のATM-Chk2経路に問題のある可能性がある。そこで、ATM、Chk2の誘導および活性化の指標であるリン酸化について検討したが、Tax-Tgマウスでは同腹のnon-Tgマウスと比較し差がみられなかった。以上まとめると、Tax-Tgマウスでみられるp53機能低下は変異によるものはほとんどなく、ATM-Chk2経路以外の要因によって、DNA損傷時にp53が誘導、安定化が阻害されているということが明らかとなった。
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