Nkx2-5遺伝子は心臓の発生や機能に不可欠なホメオボックス遺伝子であり、この遺伝子異常や発現低下による心臓疾患が知られている。当研究室では、マウスNkx2-5遺伝子中にGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子を挿入した遺伝子破壊構築(K1-GFP)、条件付遺伝子破壊構築を2種類:ES細胞のスクリーニングで正の選択マーカーとしてネオマイシン耐性遺伝子を用いる構築(Flox-neo)とピュロマイシン耐性遺伝子を用いる構築(Flox-puro)を作成した。これらの遺伝子改変、及び、様々なCreマウスとの交配による特異的な遺伝子破壊により、心臓の異常、脾臓形成不全、頭蓋顔面異常を示す有用な疾患モデルマウスを得た。本研究においてはこれらのモデル動物を用いて、疾患の病態解明、モデル動物としての有用性、治療法の開発を目指している。 初年度の成果の中で最も興味深いものの一つとして、αMHC-Creと交配したFlox-puroでの心肥大を解析した結果がある。当研究室のαMHC-Creマウスのリコンビナーゼ活性は、組換えを起こしたGFP発現を指標として調べると、初期にはパッチ状に発現し、最終的には心臓全体に発現する。この発現の特異性が心肥大に関わっているのではないかと推測した。これを検証する為に生後1年1ヶ月の一腹の仔マウスを解析した。野生型マウスの心臓は均一にGPFを発現していた。一方、Flox-puroマウスではGFPを発現していない部位がパッチ状に存在し、ホモでは心肥大を引き起こしていた。このことはGFP活性のない場所は心筋細胞がなくなり、そこへ遊走してきた繊維雅細胞のような心筋と異なる細胞と置換されたのではないかと考えられる。この結果は推測通りに、初期にNkx2-5が破壊された心筋は心臓を構成する為の機能を維持できなくなり、排除されてしまうことを示しており、心筋細胞の機能維持にNkx2-5が必要であるという新たな知見を得ることが出来た。 平行して、C57BL/6Jへの戻し交配による遺伝的な背景の均一化や伝導系の形態的な変化の解析に必要なANP(atrial natriuretic peptide)-LacZマウスの作成も行った。
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