Nkx2-5遺伝子は心臓の発生や機能に不可欠なホメオポックス遺伝子であり、変異に伴う心臓疾患が知られている。この遺伝子の機能を明らかにするために、マウスNkx2-5遺伝子を3種類に改変した。これらの改変遺伝子や様々なマウスとの交配により、有用な疾患モデルマウスを得た。本研究においてはこれらのモデル動物を用いて、疾患の病態解明、モデル動物としての有用性、治療法の開発を目指している。 NKx2-5遺伝子は成体では心臓の伝導系の形成維持に必要であるという報告がある。ただ、伝導系の形成状態を容易に調べる方法がなかった。心臓の伝導系では心房性ナトリウムペプチド(ANP)が発現している。この伝導系内のANPを測定できれば、心室での伝導系の形成状態を定量化できると考えられる。ANPは分泌タンパク質であることや発現量から伝導系内の測定は難しいと考え、ANPのプロモーターの下流にモニター遺伝子を繋ぎ、モニター遺伝子を伝導系特異的に大量に発現するトランスジェニックマウスを作ることで解決を図った。モニター遺伝子としてβガラクトシダーゼ遺伝子を用い、伝導系特異的にβガラクトシダーゼを発現するトランスジェニックマウス(ANP-lacZマウス)を作成した。このANP-lacZマウスと種々のNkx2-5遺伝子改変マウスとを交配し、それらのマウスのβガラクトシダーゼの全タンパク質に対する比活性を測定したところ、遺伝子型とよく一致していた。また、これらのマウスに於ける伝導系の形成不全の程度は、体重比で見た心臓の肥大の程度と非常に良く相関しており、伝導系の障害から心肥大が起こることを示している。ヒトに於いても、不整脈や心筋症を含む心疾患に於いて伝導系の異常が知られており、伝導系の異常から引き起こされる心臓肥大を解明するための良いモデルとなることが明らかとなった。また、ANP-lacZマウスはモデル動物での伝導系の形成状態を容易に定量化するための有用なマウスと考えられる。
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