今年度は、皮膚角層細胞間脂質の測定法の具体的な応用例として、経皮吸収剤によるスピンプローブの角層への浸透効果を最新のシミュレーション法で定量的に解析した。スピンプローブは、市販の一鎖脂肪酸である5-DSA(5-doxylstearic acid)及びコレステロール誘導体のプローブ(CHL)を使用した。ヘアレスマウス(8週齢、Male)の背部皮膚の角層を、ガラス板上にシアノアクリレートで剥離・採取した。EPR測定で得られたスペクトルをシミュレーションした。 マウス皮膚角層(1回目剥離)のEPRスペクトルでシミュレーションによって得られた5-DSAのオーダーパラメーター(S_0)は、0.25のオーダーであった。さらに、剥離回数を増やして得られた角層脂質のプローブのS_0は上昇するものの、深さ方向に対する秩序性の大きな依存性は見られなかった。しかし、テルペンを添付後のEPR信号強度が増し、5-DSAプローブの浸透増加性を示唆した。これら結果は、ヒト角層脂質の深さ浸透性への応用に有効であると思われた。 また、皮膚角層実験と並行して新規な検出器の開発を行った。化石の歯用に開発されたピンホール共振器を新たな皮膚計測用共振器に改良した。皮膚用共振器は、測定試料を挿入するタイプとは異なるオープン検出方式を採用した。オープン検出は、共振器の微小孔から出る9GHzのマイクロ波を試料に照射し、試料中のプローブがマイクロ波を吸収している状態に磁場変調をかけて検出する。オープン検出であり従来型より測定対象の水分やサイズにとらわれず試料表面部分の測定が可能になった。この研究成果は、昨年、特許として出願した。
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