研究概要 |
昨年度の研究において,脂肪酸成分のうちメチレン基プロトンの縦緩和時間(T1)を多点ディクソン法と多フリップアングル法を組み合わせたシーケンスで計測すればよいことを見出した.この多点ディクソン法においては複数のエコー時間(TE)を設定すると共に,信号処理においてあらかじめ水・メチレン・メチルを含む各プロトン成分の共鳴周波数差を与える必要がある.ところが水の共鳴周波数が温度依存であるため(温度係数は-0.01ppm/oC)温度変化につれて共鳴周波数差の値に誤差が生じる.この誤差を軽減するために各成分の周波数差にできるだけ不感なTEの設定を求めた.数値シミュレーションにより3Tの静磁場強度(共鳴周波数128MHz),室温から60℃程度の温度範囲においてはTE=1.15msが最適であること,ならびにひとつ前の撮像で検出された温度に応じてTEの値を更新すれば誤差がさらに低減できることを見出した.これらをファントム実験で証明した.データ解析ならびにそのためのソフトウエア作成には研究補助員を雇用した.続いて当初のヒト乳房ならびに動物組織に関する実験予定を一部見直し,水・脂肪混在試料における水共鳴周波数変化から求めた温度分布とメチレンT1から求めた温度分布の比較,ならびにそれらの統合方法を先に検討した.この結果,最適なTE下では両指標による温度分布が良く相関すること,ならびに水とメチレンのプロトンの存在比による加重平均により両温度分布を統合できることが明らかになった.この手法を含めて昨年度出願した特許を基に国際出願した(PCT/JP2010/066909).
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