研究概要 |
乳がんに対するMRI(Magnetic Resonance Imaging)ガイド下集束超音波治療は乳房温存療法として期待されているが,腫瘍周辺脂肪に対する非侵襲温度分布画像計測技術が存在しないことが最大の課題であった.この課題を解決するため本研究ではこれまで注目されて来なかった脂肪内の各脂肪酸成分毎の磁気共鳴パラメータの温度特性を検討し,その知見に基づいて特定の脂肪酸成分由来のパラメータを捉えて温度分布を画像化することを着想した.すなわち油脂を構成するさまざまな脂肪酸に由来するプロトン化学シフト成分を分離検出し,メチレン基ならびにメチル基の緩和時間(T1,T2)が油脂の種類によらず,類似の温度係数で温度に比例することを見出し,これに基づいて定量的かつ高速に温度分布画像を得る方法を検討した. ウシならびにブタ脂肪由来のメチレン基及びメチル基プロトンの11TにおけるT1は,室温~60℃の温度範囲でそれぞれ1.7~1.8[%/℃]及び3.0[%/℃]の温度依存性を呈した.同様にT2の温度依存性は4.0~5.2[%/℃]及び3.3~5.7[%/℃]であった.T2はT1よりも測定のSN比が低いことも考慮して,温度パラメータとして両基のT1を選択し,これを用いた温度分布画像化法として,多フリップ角法と多点Dixon法を用いた脂肪酸成分のT1による方法を開発した.この方法では脂肪酸由来のみでなく水由来の複素信号も同時に得られることから,水プロトンの磁気共鳴周波数を求めてこれも温度に換算することにより,脂肪・水両方の温度分布を同時に得て,融合する方法に至った.データ収集時間は4s/imageで,乳がんの集束超音波治療のモニタとして実用的なレベルであった.さらに水脂肪が混在するボクセルにおいてはメチレン基の共鳴周波数(温度に依存しない)を内部参照として水共鳴周波数を測定することもできた.以上のことを踏まえて,患者から摘出された乳房組織を(施設の倫理規定に沿って)利用して,超音波照射下においてデータを収集するに至った.
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