平成21年度の研究目的は(1)「パルスレーザー照射がラット海馬・錐体細胞のIh(過分極性電位依存性陽イオン非選択性)チャネル開閉を制御するかどうか」、(2)「レーザー照射(LLI : Low-power laserirradiation)による組織損傷および脳梗塞が生じるかどうか」を明らかにすることであった。 最初に(2)の課題に取り組み、既存の連続照射型レーザー装置を用いて光ファイバを通して海馬へ誘導し、照射パラメータを変えて組織損傷および脳梗塞像の検討を行った。その結果、532nm LLIの場合、出力を50mW、照射時間を最長10分間にしても海馬における組織損傷や脳梗塞像は見出せなかった。そのパラメータで照射前後のてんかん様発作波誘発閾値を検討した結果、従来の報告同様、約2倍の閾値上昇効果が得られた。一方、808nm LLIでは50mW・10分間照射により閾値上昇効果は得られないにもかかわらず直径1.3mmの空洞ができた。808nmの結果はLLIではなく電気凝固(DC0.8mA/2分間)による結果とほぼ一致するものであった。したがって、ウサギでの結果がラットでも再現されたと結論づけられた。 次に(1)の課題に取り組んでいるが、(パルスレーザー装置の発注・納入が遅れたため)現在進行中である。ラット海馬スライス標本を用いて、CA1野の錐体細胞の細胞体に微小電極を当てて、パッチクランプ法により主としてIh電流を記録し、レーザー照射中の電流変化を捕捉しようとしている。まだ完全なデータ(一連のコマンド電位変化により確認されたIh電流がIh阻害剤でブロックされること、さらに阻害剤除去後に再現したIh電流がLLIにより制御されることを示したデータ)は得られていない。しかし、808nmや660nm LLI(ともに50mW)では効果がないようである。今後、例数を加えるとともに、532nm LLIを含めて波長や出力を変化させて検討を続ける予定である。
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