本年度は研究課題の最終年度にあたり、昨年度からの継続課題である「パルスレーザー照射(PLLI)が海馬・錐体細胞のIhチャネル開閉を制御するかどうか」をパッチクランプ法を用いて精力的に検討した。ただし、使用する動物種をラットから同じ齧歯類であるマウスに変更した。CA1野の錐体細胞をターゲットとしてパッチクランプを行い、PLLI照射前、照射中、照射後に-400、-300、-200、+200pAのカレントクランプを10セットずつ実施し、以下のような点を明らかにすることができた。なお使用したパルスレーザーは波長532nm・繰り返し周波数15kHz・パルス幅1.2ns・平均パワー30mW・照射時間200sであった。 (1)静止膜電位・入力抵抗・活動電位持続時間に対するPLLI効果は観測されなかった。 (2)PLLIは活動電位の振幅を有意に増大させ(p<0.05)、その効果は照射後も持続した(p<0.05)。 (3)活動電位の閾値はPLLIによって低下し、かつその効果は照射後も持続した(p<0.01)。 (4)活動電位のonset時間はPLLIにより短縮し、その効果も持続する傾向を示したが有意ではなかった。 (5)脱分極カレントは活動電位を群発させるが、その後過分極電位はPLLIにより増大し、その効果は持続した(p<0.01)。 (6)上記の群発放電間のインターバルはPLLIにより延長し、その効果はやはり照射後も持続した(p<0.05)。 (7)過分極カレントによってIhチャネルを開口させ脱分極シフトを検討したが、PLLIにより影響を受けなかった。しかし、Ihチャネルの開口速度に対する影響は検討していないので、結論には未到達である。 (2)(3)のことからPLLIによるNaチャネルへの影響、(5)(6)のことからKチャネルへの影響が考えられる。Ihチャネルへの影響が不明確であるが、Ihチャネルの開口速度の低下は群発放電を防ぐことにもなりinter-spike-intervalの延長にもつながるので、「レーザー照射による発作波閾値上昇効果」の作用機序を提供する可能性があると考えられた。
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