研究概要 |
本研究では,好アルカリ性細菌J813株が生産するキチナーゼ(ChiJ)に含まれるフィプロネクチンタイプIII様ドメイン(FnIIID)やキチン結合ドメイン(ChBD)といった付加ドメインを用い,キチンを基盤とする新規細胞培養用人工マトリックスの創製を目指す。平成21年度は,FnlllD/ChBD領域ないしChBD領域に対してRGD配列を導入した各種組換えタンパク質を調製し,それらがインテグリンと相互作用すること,そして各種組換えタンパク質を固定化した培養フラスコにマウス繊維芽細胞が接着可能であることを明らかにした。平成22年度は,上で調製した組換えタンパク質を固定化した培養フラスコ上に,インテグリンを介してヒト繊維芽細胞が接着可能であることを明らかにした。さらに,RGD配列を付加したFnlIID/ChBDおよびChBD組換えタンパク質に対し,さらに多くのRGD配列やPHSRN配列を導入することで,高いマウス繊維芽細胞接着能を有することを明らかにした。平成23年度は,ChBDのキチン結合能向上を目指し,ChBDとグルタチオンーS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質GST-ChBDを用いたタンパク質工学検討を行った。アミノ酸置換を導入した融合タンパク質の結合解析の結果,Trp541およびTrp542がChBDのキチン結合に重要であることが明らかとなり,ChBDは当該芳香族アミノ酸を介したスタッキング相互作用により不溶性キチンと結合すると推察された。そこで,ChBDの不溶性キチン結合能の向上を目的として,分子表面に新たに芳香族アミノ酸の導入を試みた。Trp541およびTrp542と直線的に並ぶ位置にTrpを導入することで,全体としての親和性は低下したものの,キチン分子上の認識可能部位が増えたことが示唆された。
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