研究概要 |
本申請研究の目的は,生体内輸送蛋白質であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)を用いた,新規ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)の構築である。本年度は,概ね研究実施計画どおりに研究を遂行できた。難水溶性薬剤(ジアゼパム(DZP), GABA_A受容体作動薬,及びNBQX, AMPA型グルタミン酸受容体拮抗剤)に対する結合親和性の異なる20種類の変異体L-PGDSを作製することの成功した。それら変異体L-PGDSとDZPとの結合親和性,及び変異体L-PGDS存在下におけるDZPの溶解度を測定した結果,結合親和性の高い変異体ほど,DZPの溶解度が上昇することが判明した。現在,同複合体のマウス経口投与によるin vivo薬理効果を調べている。また,次年度遂行予定であった,ヌードマウス移植ヒト腫瘍(xenograft)モデルを構築することに成功した。ヒト大腸癌細胞株であるDLD-1細胞をヌードマウス皮下に移植し,難水溶性抗がん剤であるSN-38とL-PGDS複合体を癌組織に直接注入することにより,L-PGDS単独投与群に比べて,有意に癌組織を縮小できることを明らかにした。これまでプロドラッグであるイリノテカンを点滴静脈注射薬として使用していたことを鑑みると,イリノテカンの活性代謝物であるSN-38を直接使用できることを示した驚くべき成果である。さらに,多次元NMR法,及びX線小角散乱法を用い,DZP,及びNBQXとL-PGDS複合体の構造解析を行った結果,両薬剤がL-PGDSの疎水性ポケット内部に結合し,それに伴ってL-PGDSがコンパクトになることが判明した。輸送体蛋白質自身のコンパクトパッキングは,薬剤を目的組織に輸送するための重要な性状であると考えられた。
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