研究概要 |
本研究の目的は,生体内輸送蛋白質(リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素,L-PGDS)を用いたドラッグ・デリバリー・システム(DDS)の創製である。本年度は,抗不安薬であるdiazepam(DZP)とAMPA受容体拮抗薬であるNBQXを用い,難水溶性薬剤に対するL-PGDSを用いたDDSの有用性を検討した。等温滴定型熱量測定によりL-PGDSは,DZP,及びNBQXを3分子結合し,解離定数はそれぞれ47.6μM,及び16.5μMであることが明らかとなった。また,非変性条件下における質量分析により,確かにL-PGDSには3分子のNBQXを結合することが判明した。また,詳細な結合様式を調べるために,NMR法を用いてL-PGDSに対する各薬剤の滴定実験を行った結果,L-PGDSのβバレル構造全体のアミノ酸残基由来のシグナルが変化したことから,L-PGDSは各薬剤をβバレル内部に結合することが判明した。さらに,pentobarbitalによる麻酔時間に対するDZP/L-PGDS複合体マウス経口投与の影響を調べた結果,DZP/L-PGDS複合体投与群は,DZP/カルボキシメチルセルロース懸濁液投与群と比較して,麻酔時間が有意に延長された。以上の結果から,L-PGDS存在下において溶液中のDZP濃度が上昇し,バイオアベイラビリティーが上昇することが示唆された。さらに,脳虚血を施したスナネズミにおけるNBQX/L-PGDS複合体静脈内投与の影響を調べたところ,海馬CAI領域の遅発性神経細胞死が抑制された。以上の結果から,本DDSは経口投与,及び静脈内投与の両投与法により,有効であることが判明し,本DDSが広く臨床応用できる可能性を示した。
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