研究概要 |
本研究の目的は,難水溶性であるが故に開発から排除された薬剤を,輸送蛋白質であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)を用いて,体内輸送させることにより利用可能にすることである。本年度は,概ね研究実施計画に従い研究を遂行できた。平成22年度より実施している難水溶性抗癌剤のSN-38とL-PGDS複合体による担癌マウスにおける抗腫瘍効果の精度を上げると共に,プロトコルの改善と複合体投与濃度の修正を行った。新生血管の内皮細胞に発現する膜貫通蛋白質CD13を認識するAsn-Gly-Arg (NGR)をL-PGDSのN末端に導入した変異型L-PGDSとSN-38(K_d=40μM,結合比=1:2)との複合体を作製し,SN-38の溶液中濃度を測定したところ,2mM NGR-L-PGDS存在下で,PBS存在下と比較して300倍も高いことが判明した。また,SN-38/NGR-L-PGDS複合体をヒト大腸癌細胞株Colo201細胞移植ヌードマウスの静脈内に投与したところ,PBS投与群に比べて有意な抗腫瘍効果が観測された。これまで,SN-38は難水溶性のため,その誘導体のイリノテカン(CPT-11)が臨床に展開され,大腸癌,肺癌,卵巣癌等に用いられている。CPT-11は,体内でcarboxyl esterase (CE)によりSN-38に変換され抗腫瘍効果を発揮するが,その効果はSN-38に比べて遥かに低いこと,CE活性に個人差があること,重篤な下痢を引き起こすことから,より効率的で有効な抗腫瘍効果を得るためにはSN-38の直接利用が望まれていた。本研究成果は,L-PGDSを用いたDDSによる難水溶性抗癌剤の可溶化と標的指向性により,.in vivo抗癌効果を示した画期的な結果であり,新規抗癌剤SN-38/NGR-L-PGDS複合体として臨床応用への展開が期待される。
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