我々は生体内環境を模した人工血管の作製を目標としている。平成21年度にはその端緒として、IV型コラーゲン会合体上で培養した血管内皮細胞の構造と機能の検討を目指した。 まず我々は、ウシレンズキャプセルからIV型コラーゲンを抽出するため、酢酸溶液、アルカリ溶液を順に使用した。これら溶液を用いて会合体を作製し、血管内皮細胞の培養を行った。その結果、酢酸溶液或はアルカリ溶液にて抽出したIV型コラーゲン溶液を用いた会合体上では、I型コラーゲン会合体上よりも増殖が亢進した。さらに、会合体の形成を行わず、培養時にそれぞれのコラーゲン溶液を添加したところ、やはりIV型コラーゲン溶液の添加により、増殖が亢進した。特にアルカリ溶液にて抽出したIV型コラーゲンによって増殖は著しく亢進した。これらの結果は、それぞれのIV型コラーゲン溶液中に内皮細胞の増殖を亢進する因子の存在を示唆しており、今後、この因子の同定を進める。 また、IV型コラーゲン会合体上で培養した血管内皮細胞の形態を明らかにするため、抗アクチン抗体にて細胞の形態を観察した。その結果、IV型コラーゲン会合体上では細胞間に間隙無く生育するのに比べ、I型コラーゲン会合体では細胞間に間隙が見られた。生体内では、血管内皮細胞が血管壁を間隙無く覆っていることが血液の流出を防ぎ血栓形成を防ぐのに重要である事から、IV型コラーゲン会合体上での内皮細胞の形態は生体内に近いものであると推察される。また、血管内皮細胞の形態と機能に関与するギャップジャンクションについて検討するため、蛍光標識した抗コネキシン抗体を用いて、IV型コラーゲン会合体上で培養した内皮細胞のギャップジャンクションの観察を試みた。しかしながら、抗体の特異性が低いため、ギャップジャンクションの観察にまで至っていない。今後、抗コネキシン抗体の選別を行い、再度同様の実験を行う。
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