研究概要 |
我々は生体内環境を模した人工血管の作製を目標としている。平成22年度には、IV型コラーゲンまたはI型コラーゲン会合体上での長期培養が血管内皮細胞の機能に与える影響について検討した。 まずIV型あるいはI型コラーゲン会合体上で血管内皮細胞を培養したところ、平成21年度に行った実験とは異なり、増殖速度に大きな差異は見られなかった。先行実験では、IV型コラーゲン溶液を用いた会合体上では、I型コラーゲン会合体上よりも増殖が亢進していた。原因として、ウシレンズキャプセルからのIV型コラーゲン抽出時に、コラーゲン溶液中に含まれる、増殖に関与する因子の濃度に差異が生まれるためではないかと考えている。 次に、IV型あるいはI型コラーゲン会合体上で長期(2ヶ月間)培養した血管内皮細胞の形態を抗アクチン抗体にて調べた結果、IV型コラーゲン会合体上では細胞が密に生育するのに比べ、I型コラーゲン会合体では細胞間に間隙が見られた。また、長期培養が血管内皮細胞の機能に与える影響を調べるため、(1)ギャップジャンクションを構成するコネキシン43、(2)血管内皮細胞の分子マーカーであり、血栓形成に関与するフォンビルブランド因子(VWF)、に特異的に反応する抗体を用いて検討した,その結果、IV型コラーゲン会合体上で培養した内皮細胞では細胞間へのコネキシン43の局在が確認され、ギャップジャンクションの形成が示唆された。一方、I型コラーゲン会合体上ではコネキシン43は核周辺に局在しており、細胞間のギャップジャンクション形成能が低下していると考えられる。また、IV型コラーゲン会合体上で培養した殆どの内皮細胞にてVWFの発現が確認されたが、I型コラーゲン会合体上では一部の細胞でのみVWFが発現した。これらの結果は、長期培養時、IV型コラーゲン会合体上での培養によって、内皮細胞の構造と機能が維持される事を示唆している。
|