我々は生体内環境を模した人工血管の作製を目標としている。平成23年度には、IV型コラーゲン会合体上での長期培養がヒト大動脈血管内皮細胞(HAEC)の形態と機能に与える影響について、免疫蛍光染色、realtimeRT-PCR法を用い検討した。比較対照として、1型コラーゲン会合体、ペプシン処理したIV型コラーゲンやI型コラーゲンを基質として血管内皮細胞の培養を行った。まず、内皮細胞間の接合部に局在するコネキシンの発現を調べたが、発現量が少なく観察出来なかった。そこで、生体内で内皮細胞間の接合部に発現が認められるPECAM-1の局在部位を免疫蛍光染色にて調べた。IV型コラーゲン会合体上では、隙間なく配列したHAECの細胞間接合部にPECAM-1の局在が確認できた。一方、その他の培養基質上で培養した場合、細胞間に隙間が多く重層化しており、PECAM-1は細胞間接合部だけでなく細胞全体に局在していた。このHAECの形態、配列は接着しているコラーゲンの会合体の形状に起因していると考えられ、IV型コラーゲン会合体は生体内の基底膜の構造を一部再現していると考えられる。次に血管内皮細胞の分子マーカーであるVWFの局在を免疫蛍光染色にて調べた。IV型コラーゲン会合体上のHAECではほぼ全ての細胞がVWFを発現していた。一方、他の基質上で培養した場合、VWFを発現する細胞と発現していない細胞が混在していた。これらの結果からIV型コラーゲン会合体上で培養したとき、HAECの生体内での形態と機能を再現できると結論づけた。さらに2ヶ月間各基質上で培養した時のPECAM-1、VWF mRNA量を測定した。その結果、IV型コラーゲン会合体上で培養した場合、その他基質上で培養した場合と比較し、PECAM-1、VWF mRNA共に減少していた。遺伝子発現が減少する機構について、現在検討中である。
|