研究概要 |
板状PVA-HおよびTi試験片の表面に化学量論的ハイドロキシアパタイト(HA)と,本課題の特色である擬似体液由来ハイドロキシアパタイト(SBF-HA)を300~1500nmの厚さで被覆した試験片を製作することに成功した.これらを培地としたヒト骨芽細胞の培養実験を行った.そして,これらアパタイト薄膜の細胞増殖能および分化能の指標であるアルカリフォスファターゼ活性とオステオカルシン産生を比較・評価した.アパタイトを被覆しない培地に比較して被覆した培地は,細胞増殖能,分化能とも1.5~2倍程度大きく,被覆の効果が認められた.一方,HAとSBF-HAの比較では,細胞増殖能・分化能に有意差は認められず,当初期待した結果は得られなかった.この原因は,SBF-HAに対する熱処理であることを突き止め,直ちに成膜方法を変更して再実験を実施した.その結果,分化能向上の効果につきHAに比べてSBF-HAの方が大きいことが示唆された. ナノスクラッチ試験機を用いて,厚さ820-1860nmのHAおよびSBF-HA薄膜に対して,ナノスクラッチ実験を実施した.特にSBF-HA薄膜に対するスクラッチ実験は,独創的であり先行研究がないため,慎重に実験を行った.HAとSBF-HAの破壊特性と基板との密着強さには有意な差が認められた.定量値の決定にはさらなる実験結果の積み重ねが必要である.しかし定性的には,同条件で前者は破壊機構として壁開を生じ,後者は無数の微細亀裂の発生とその接続によって被膜が基板から剥離する傾向があることを明らかにできた.これらの特性に影響する表面性状を形態および表面粗さの両観点から検討した結果,被膜組成の違いは表面性状に大きな影響を及ぼさないことが示唆された.新たな課題が派生したが,平成21年度は予定通りに研究活動を展開できたと判断する.
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