研究者が開発を進める超音波照射による培養細胞へのメカニカルストレス負荷システムは、研究者独自のアイデアによるオリジナルのシステムである。平成21年度内に基本的形態を完成させたが、その後の予備実験において超音波照射による培養装置の想定外の温度上昇が明らかとなったため、前年度までに、生体内の血液循環による組織冷却効果を模した循環水型の冷却システムを開発し、まず照射装置(超音波振動子)の温度上昇による培養装置の温度上昇を防止することに成功した。 一方、超音波照射はそれ自体照射対象に対するエネルギーの付与に他ならないため、超音波照射に際しては、上述の超音波振動子の温度上昇のほか、照射対象(培養細胞)の温度上昇も生じ得る。上述の超音波振動子冷却システムには照射対象(培養細胞)の温度上昇抑止効果も期待されたが、実際の測定実験ではその効果が限定的であることが判明した。こうした照射対象(培養細胞)の温度上昇は培養細胞に対する超音波の継続的な照射を困難にするため、これを抑えつつ有効な照射を行うためには、温度上昇が問題にならない条件の範囲で照射を行うことが重要である。 よって今年度は照射対象である培養細胞の温度上昇を詳細に解析するシステムを開発し、本実験で用いる照射条件の範囲を決定した。またこうした解析は、理論的には説明可能でも実測が非常に難しい、超音波照射の熱的作用の実際をin vitroで再現し検証することに他ならず、その成果は超音波の安全性という観点から見てもきわめて大きな意義を持つ。そこでこの成果を「生体に対する超音波照射の影響:組織照射モデルによるin vitroの検討」と題して第85回日本超音波医学会学術集会にて発表する予定である。
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