漏斗胸は胸郭の陥没変形を主症状とする先天性疾患である。漏斗胸においては胸郭の陥没が心肺機能を低下させるのみならず、変形の存在が劣等感の原因となり、患者の情緒的発育にも大きく影響する。本研究は、先天性胸郭変形症(漏斗胸)に対する、矯正バー挿入手術(ナス法)において、術前・術後における胸郭の形態変化を予測するシミュレーションシステムを確立することを目的として施行した。研究は平成21年度より3年間の計画を立てた。平成21年度には胸郭の各構成部分に適正な物性値を割り当てることにより、外力が作用した際の形態変化を反映する基本モデルを作成した。平成22年度には作成されたモデルの精度を高めることにより実際の症例につき応用した。臨床上の現象を解析したうえ、なぜその現象が生じるのかについてシミュレーションモデルを用いて理論的な解明を行った。具体的には二つの事象につき解明を行った。第一に、ナス手術において使用するバーと術後胸郭に発生する応力の関係について検討を行い、複数のバーを使用した方が単数のバーを使用するよりも胸郭に発生する最大応力は小さく、ために術後の疼痛が少ないことを解明した。さらに、術前の胸郭の変形のパターンによっては、バーの装着によって脊椎が彎曲する変化が生じる現象を発見し、術前の胸郭の変形パターンと、術後に生じうる脊椎の側彎のリスクの関係につき解明を行った。これらの研究成果は米国の胸部外科学会公認誌であるJournal of Thoracic and Cardiovascular Surgery他、英文誌に4本の論文として発表している。
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