本研究の目的は、血管性認知症に対してADLの向上を目指した包括的なリハビリテーションの効果を実証し、その神経基盤を解明することである。 平成21年度に実施した包括的なリハビリテーションは、移乗動作障害に対する課題指向型の運動療法と心理的支持からなっていたが、心理的支持の効果を検討するために、平成22年度以降は、平成21年度に心理的支持を実施した群と病巣がマッチングした対象者を対照群として、心理的支持の代わりに世間話などを行った。病巣以外の組入れ基準は平成21年度と同じにした。つまり、NINDS-AIREN基準のprobable VaD患者で、移乗動作に介助を要し、MMSE10点以上でリハビリテーションにおける教示が可能であり、重度の併存疾患などリハビリテーションの阻害因子を持たない血管性認知症患者である。平成21年度は2名より同意が得られた。 臨床評価は、2カ月間実施したリハビリテーション介入前後に神経心理学的評価(MMSE、Geriatric Depression Scale(GDS)、標準意欲評価法(CAS))、運動機能障害評価Stroke Impaiment Assessment Set(SIAS)、ADL評価(Functional Independence Measure (FIM))を行った。局所脳糖代謝量はFDG-PET検査により測定し、リハビリテーション介入前後の比較にはStatistical Parametric Mapping解析を用いた。 その結果、対照群2名において、MMSE、GDS、CASおよびSIASのいずれにも有意な変化を認めず、FIMによる移乗動作の介助量もほとんど変わらなかった。局所脳糖代謝量では介入前後で明らかな変化を認めなった。したがって、ADL障害を有するVaD患者に対して運動療法に心理的支持を加えた包括的なリハビリテーションは有効であり、その効果は右島皮質の糖代謝の増加と関係している可能性が示唆された。
|