研究概要 |
本研究の目的は、虚弱高齢者の精神的健康を維持し、中長期的なQOLを維持・向上させるための作業を用いた回想法プログラムを開発することにある。本年度は、作業を用いた回想法プログラムの試案を作成するために、地位在住の65歳以上の高齢者79名(平均年齢約72歳,男性39名,女性40名)を対象に、以下の横断的調査を実施した。 1. 高齢者の回想を促す刺激として、会話以外の適切な回想刺激を明らかにする 高齢者が普段行っている回想の頻度(回想量)をスケールにより評価し、回想刺激として、日常生活で遭遇する写真や音楽などの刺激について、どの程度回想を経験したかを4件法で回答を求めた。そして、回想量と回想刺激との関連をSpearmanの順位相関係数の検定により検討したところ、飲み物や食べ物「との間に有意な関連のある傾向(p<0.1)がみられた。つまり、飲食物が会話以外の有用な回想刺激となる可能性が示唆された。 2. 高齢者の主観的幸福感と回想(回想量、回想の質)との関係を明らかにする 主観的幸福感を生活満足度K(LSIK)により、回想を上述の回想量以外に回想の質尺度(肯定的・否定的回想)によりを評価した。LSIKと回想(回想量、肯定的回想、否定的回想)との関連をPearsonの相関係数の検定より検討したところ、回想量(p<0.01)、肯定的回想(p=0.03)、否定的回想(p<0.01)の全てに有意な関連がみられた。次に、有意な関連を認めた要因を独立変数として、LSIKを従属変数とした重回帰分析(強制投入法)を行った結果、回想量(β=-0.709, p<0.01)と肯定的回想(β=0.382, p=0.02)が有意な要因として抽出された。つまり、回想を頻回に行うよりも回想が肯定的であれば、幸福な老いを感じる傾向にあることが示唆された。 3.まとめ 以上の結果から、回想法プログラムの中に、会話以外に飲食物を補助的に利用することで、高齢者の回想をより促すことに繋がると思われる。また、回想を促すだけでなく、人生を肯定的に見つめることができるよう留意することがプログラム実施では必要となると考えられる.
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