本研究の目的は、QOLの低下が懸念される地域在住の高齢者を対象に、研究代表者らがこれまで考案してきたグループ回想法プログラムを基に、より地域に根ざした実践的で実効性のある回想法プログラムを開発することにある。21年度は、回想を効果的に促すため、回想刺激と回想との関係について調査を行い、匂い刺激に対して回想経験を有する者ほど、肯定的な回想をする傾向にあることを明らかにした。22年度は、回想刺激として匂い刺激を用いた回想法プログラムを作成し、その短期的な有効性を検討した。23年度は、更に対象者を増やして追跡調査を実施し、中期的なプログラムによる効果の検討を行った。具体的には、同意の得られた地域在住高齢者を対象に、2週間に1回の頻度で90分程度の回想グループセッションを計8回実施した。その内容は、非時系列なテーマを設定し、回想を促すために嗅覚を刺激することができる材料を各セッションで1つ用いた。リーダーは、地域のNPO法人回想法センターの職員が担当し、サブ・リーダーはボランティア登録している高齢者が担当した。パラメータとしてGeriatric Depression Scale(GDS-15)、Life Satisfaction Index K(LSIK)のスケールを用い、ベースライン(介入1ヶ月前)、介入直前、介入終了直後、介入終了3ヶ月後の4時点で評価を行った。反復測定による分散分析を行なった結果、GDS-15において有意な変化が認められ、多重比較を行なったところ、ベースラインと介入終了直後、ベースラインと介入終了3ヶ月後の間で有意な差が認められた。 以上のことから、嗅覚刺激を伴った物品提示によるグループ回想活動は、高齢者の精神的健康に対する短期的のみならず中期的な効果を示す可能性が示唆された。本研究では、高齢者ボランティアなどの民間レベルの活力を生かし、その効果の可能性を示すことができたことから、今後の介護予防事業の一つのモデルを提示することにも繋がると考えられる。更に、嗅覚を刺激として用いた回想刺激は、地域の中で簡便に利用できる方法となると思われる。
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