高齢者におけるバランス運動か中枢神経系シナラスにおける可塑的変化に与える影響を検討するため、老化促進モデルマウス(SAM)を対象にローターロッドによるバランス運動介入群とその対照群を設け、採取脳に対して生化学的分析を行った。本年度はバランス運動学習において重要な小脳虫部領域における修飾を検討するため、生体SAMに対して1ヶ月間の運動介入を行い、小脳虫部を採取し、BDNF、NT3、NT4、NGF等の神経栄養因子とその受容体のmRNA発現レベルおよび小脳皮質における主要なシナプス受容体として働くAMPA受容体サブユニットのmRNA発現レベルをリアルタイムPCR法を用いた定量的PCR法により定量した。AMPA受容体のサブユニットGluR2は特異的リン酸花にまり後シナプス膜よりシナプス外に移行し、このことが選択的なシナプス抑制を惹起し、バランス運動学習において重要な要因として考えられる。そこで、ウェスタンプロッティング法に基づくGluR2の蛋白発現レベルとその特異的リン酸化レベルの定量を行った。ローターロッド運動の耐久時間は経時的に漸増し、1ヶ月間で有意なバランス運動学習効果を認めた。小脳虫部においてBDNFおよびGluR2のmRNA発現は1ヶ月間のバランス連動介入により有意な減少が生じた。その他の定量項目については運動介入による有意な効果は認められなかった。GluR2 mRNA発現量の減少は、後シナプス膜におけるGluR2のシナプス外移行によるシナプス抑制に追随して適応的に余剰なGluR2生成の抑制が惹起されている可能性も示唆される。次年度においては、高齢SAMを対象として本年度の結果と比較検討することにより、老化およびバランス運動の両要因とその相互作用を検討するとともに、より短い介入期間を設け、GluR2 mRNA発現抑制の前駆的徴候についての検討を行う。
|