研究概要 |
前十字靭帯損傷(以下ACL)はスポーツ損傷の中で発生頻度が高く、保存療法では靭帯の治癒は起こらないと考えられてきた。ヒトを対象とした保存療法の報告は少なく、ACLの治癒はほとんど考えられていない。井原らとの研究において,特殊な装具による関節制動により損傷したACLが治癒することを報告し、ACL再生の可能性が示唆された。本研究では、膝関節制動を制動することにより断裂ACLがどのように変化するかを研究するための動物実験モデルを考案し、靭帯再生について観察することであった。膝関節制動モデルとして、膝蓋腱貫通モデル、下腿前方筋貫通モデル、大腿骨後方-脛骨前方モデル、大腿骨前方-脛骨前方モデルの計4方法を考案し、8週齢と30週齢ラットのオスを対象とした。ACL切断から8週間後の断裂ACLの変化と差異について比較した。 結果、8週齢のラットでは膝関節内に廠痕組織・嚢胞形成・膝関節の変形性関節症所見がみられ、一部のラットでは人工靱帯が関節内に侵入していた。成長に伴う膝関節の膨大化により、人工靱帯に過剰なテンションが発生し、張力に耐えられず関節内に人工靱帯が侵入したと考えられる。30週齢で脛骨面に人工靱帯を固定した大腿骨後方-脛骨前方モデル、大腿骨前方-脛骨前方モデルでは比較的良好なACL様の軟部組織の増殖が認められた。大腿骨後方-脛骨前方モデルでは3例全てに脛骨前方引き出しが制動され、ACLの再生治癒の可能性が示唆された。1匹に軽度の伸展制限と軽度の変形性関節症所見(瘢痕化組織の増加)を認めたものの,他の2匹に関しては伸展制限・変形性関節症所見ともに認めなかった。一方、大腿骨後方-脛骨前方モデルでは同じく顆間窩に瘢痕組織が充満し、一部線維性組織が肉眼的に観察されたが、関節の動揺が認められた。正常な関節運動を繰り返すことで靭帯治癒を促し、変形性膝関節症を予防する可能性が示唆された。
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