膝前十字靭帯損傷は発生頻度が高いスポーツ損傷で、手術を行わず自然治癒を期待する保存療法では靭帯の治癒は起こり難いと考えられている。しかし、これまでの臨床研究によって、正常な関節制動により靱帯が治癒する可能性が示された。我々はこれまでに、前十字靭帯切断に対する自然治癒の動物モデルを考案し、前十字靱帯の治癒の可能性を確認した。4種の保存療法モデルの中で、大腿骨後方の軟部組織を貫通させ、脛骨の中枢側前方の骨孔を開けてそこにナイロン糸を廻して関節制動をしたモデルの靱帯の治癒が優れていた。今回の研究はラットを用いて、治癒靱帯の強度およびコラーゲン組成について検討することを目的とした。結果は、8週後および40週後にすべての前十字靱帯の連続性が肉眼的に認められた。ACL切断8週後および40週後の治癒靭帯の強度は、正常靱帯がそれぞれ2。8±2。9N(平均±標準偏差)、24。2±4。0Nに対して、10。2±4。2N、11。2±4。2N(p<0。01)で、約半分の強度であった。組織学的には連続した靱帯が認められたが、靱帯の径は大きく、顆間窩に瘢痕組織が増殖していた。8週後と40週後の靱帯強度に差が認められなかったことより、靱帯強度は8週以前にはほぼ決定していることが示唆された。正常に近い関節運動は損傷した靭帯の治癒を促し、変形性膝関節症を予防する可能性が認められたが、治癒靭帯は8週以内に強度が決定する可能性が示唆された。今回の研究結果により靱帯修復過程の解明と靱帯強度を高める方法の検索が新たな課題となった。
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