本研究では、自食時において、スプーンの形状が捕食機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的に研究を行った。 実験機材として、3種類の大きさの異なるスプーンを準備し、スプーンの柄にひずみ計を取り付け、上肢操作と唇の接触によって発生するスプーンの歪みを計測した。また、ボウル中央部には圧力センサを取り付け、捕食時の口唇圧を測定した。 本研究の対象は、健常成人、成人知的障害者、発達期の子ども(1歳から5歳)である。 健常成人では、スプーンが深いものでは口唇圧の持続時間が長くなることが示された。スプーンのボウル部が長いものでは、スプーンを引き抜く際に生じるスプーンの曲げの持続時間が長くなることが示された。これらの結果から、健常成人は、口唇および上肢の操作によって捕食時の口唇と食具の適合を高めていることが示唆された。 成人知的障害者を対象とした研究では、それぞれのスプーンの計測結果ばかりではなく、1回ごとの試行についても計測結果から一定のパターンが見いだせなかった。成人知的障害者のスプーン操作は、一定の協調的な運動パターンではなく、上肢操作・口唇圧いずれも不規則なパターンが観察された。 発達期の子どもを対象とした実験では、スプーンによる自食時の上肢操作および口唇圧が発達的にどのように変化するかについて研究を行った。口唇圧およびスプーンの口唇接触や引き抜く際のスプーンの曲げに関する多くの項目で5歳児はそれより小さい子どもとは差が認められた。口と手の協調運動は5歳児で質的に変化することが示唆された。
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