本研究の主たる目的は、低・高頻度TMS(経頭蓋磁気刺激)またはanodal-cathodal tDCS(経頭蓋直流電気刺激)といった介入的刺激方法のうち「集中的作業療法と併用した場合に、脳卒中後上肢麻痺の改善効果が最大となる刺激方法を明らかにする」ということである。当該年度においては、集中的作業療法と併用した場合、低頻度TMSの適用が上肢麻痺を明らかに改善するということをパイロット研究として確認することができた。実際には脳卒中後上肢麻痺の患者に15日間入院していただき、連日で集中的作業療法(毎日120分間の個別訓練と120分間の自主トレーニングを行う)と並行して20分間の低頻度TMS適用(健側大脳運動野に1ヘルツの刺激を与える)を毎日2回試みたところ、副作用の出現を全くみることなくほぼ全例で他覚的上肢運動機能評価スケールの点数が向上を示した(この結果は学会報告として国際脳卒中学会などで、論文報告としてDisability and Rehabilitation誌などに発表済みである)。また、高頻度TMSについては(元々痙攣発生の危険性が報告されていたことに加えて)施行時における患者の不快感の自覚が顕著であったため、今後は「積極的には」これを適用しないこととした。tDCSについては、すでに機器を購入しており、当該年度においては健常人を対象にその安全性と実現可能性を検討した。結果として、20~30分間の連続使用であれば特に頭痛、悪心、その他の神経症状の出現などの副作用を呈することは全くなく安全に施行可能であった。また、TMSと比してtDCSはその適用がより容易であるとの印象を受けた。
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