リハビリテーション医学の分野において、ポストポリオ症候群(PPS)に関しての研究は概して四肢の筋力低下、および装具に関してのものが多く、頭頸部に関しての研究は皆無である。逆に耳鼻咽喉科や歯科でもPPSとの関わりを検討したような研究はみられない。しかしながら、PPS患者の多くが嚥下障害・顔面神経麻痺・難聴・顎関節症・味覚障害など耳鼻咽喉科・歯科的疾患に悩んでいる。日本国内には、PPSでかつ頭頸部疾患を有する患者は数万人存在すると考えている。その中でも特に多くの訴えのあった顎関節症に焦点を絞って検討を行った。①PPS患者で顎関節に異常(関節雑音・開口障害・関節疼痛)を自覚している群、②PPS患者で顎関節にはなんら自覚症状のない群、③無作為抽出した非PPS顎関節症患者、④顎関節になんら自覚症状を有さない健常人ボランティアの4群(各群10名)の比較検討を行った。検討した資料は顎関節MRI画像、回転方式パノラマX線撮影像、顎関節断層撮影像の各画像検査結果および口腔内診査の結果である。その結果、顎関節に自覚症状を有する①③群の比較では、骨変化や関節円板の復位を伴わない前方転位の像がほぼ同数見られた。顎関節に自覚症状を有さない②④群の比較では、④群では9人が異常なしであったが、②群では7名に骨変化や関節円板の位置異常が認められた。関節円板の位置異常は7例前例が復位を伴わない前方転位であった。今回の比較ではPPS患者群での平均年齢が非PPS患者群に比べて平均年齢が約30歳高かったため、一概にPPS患者に顎関節症の発症が多いとは言い切れないものの、脚長差や脊椎の変形による姿勢の変化が顎関節に影響を及ぼしている可能性があることが示唆された。また、口腔内所見としては、多数PPS患者に歯の咬耗がみられた。咬耗によっても顎関節症が発症したと考えられる。この結果は、今年度中に論文化し発表予定である。
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