本研究課題では、手動操作が困難な身障者や高齢者が「唇の動き」で操作できる次世代型「介護用電動車いす」の実用化を目指す。その場合、安全でかつ容易に操作できるだけでなく、車いすの走行がスムーズで「乗り心地」が自然であることが重要である。この目的の下、以下に研究に取り組んだ。 1) 認識精度に関する検討:これまでは数人の発話者のみを対象とした認識実験を報告していたのに対し、10人の発話シーンを撮影して認識実験を実施した。さらに、読唇システムを利用する際に計算機スペックによりフレームレートが変わることを考慮し、撮影した発話シーンのフレームレートを擬似的に変えて認識実験を行なった。この成果は国際会議1件、国内学会2件で報告した。また国際会議および国内学会にそれぞれ1件投稿中である。 2) 読唇システムに関する検討:前項目は事前に撮影した発話シーンに対する認識実験であったのに対し、リアルタイム読唇システムを用いて9人の被験者に対して車いす制御用14単語に対する認識実験を行なった。この成果は学術論文としてまとめ投稿する予定である。 3) 車いすの走行制御に関する研究:学校や病院などの多くの公共施設は複数のフロアがあり、エレベータが設置されている。しかし、これまで移動ロボットに関する研究でフロア間移動について議論されていない。そこでエレベータを利用してフロア間の移動が可能なシステムを開発した。この成果は国際会議や国内会議で発表した。また、これまでのシステムでは、車いす前方に2台の超音波センサ、周囲に8個の赤外線センサをもとに車いすの走行環境を取得していた。この場合、外界センサの検知範囲の制限およびセンサの精度の問題による制限が生じていた。そこで新たなシステムとして、車いすの前方に1台のレーザーレンジファインダ(LRF)、後方に6個の赤外線センサを用いることにより車いすの周囲環境を広範囲かつ高い精度で取得できるよう改善した。またLRFを用いたSLAMを実装し、壁沿い走行を試みている。
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