研究概要 |
高強度運動時の損傷筋内に発生する一酸化窒素(Nitric Oxide : NO)が非定常状態である3Gの過重力環境時にどのような変化を示すのかを検討した.実験には雄ラットを用い過重力負荷として遠心機により3.0-Gを8分間負荷した.筋損傷の指標となるβ-グルクロニダーゼ,TNFα,iNOS遺伝子およびNOは,腓腹筋,前脛骨筋および長指伸筋において,コントロール群に比べて,過重力負荷群の方が有意に高い値を示した.一方,IL-6には過重力負荷群とコントロール群の間に有意な差を認めなかった.ヒラメ筋においては,明らかな生化学的変化を認めなかった.短時間の過重力負荷では,すべての筋で1L-6に変化を認めなかった。さらにヒラメ筋ではそれらのすべての変化を認めなかった.これらの結果より,8分間の3.0-G過重力負荷は,腓腹筋,前脛骨筋および長指伸筋において筋損傷の指標物質を有意に増加させたものの,筋損傷の指標物質の一つであり筋へのグルコースの取込にも関与するIL-6は,いずれの筋においても増加しなかった.さらに遅筋であるヒラメ筋においては他の筋とは異なりすべての指標において,過重力負荷による影響を認めなかった.これらの結果から,短時間の過重力負荷により引き起こされる骨格筋内の炎症性反応は1G環境下とは異なり,さらに筋特性による応答性の差異が生じている可能性が示唆された. 今回の実験結果と先行研究により,NOの生成は骨格筋損傷という現象をトリガーとして増加するが,重力環境の違いによりその生成機序も異なることが考えられる.これは,骨格筋損傷を考察する上で非常に重要な示唆であり,筋痛の発生にも大きく関与するものと思われ,本研究の今後の進展に大きな意味をもつものと思われる.
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