伸張性収縮運動によって引き起こされる筋損傷時には、誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)によって一酸化窒素(NO)が生成される。筋損傷時の炎症によって引き起こされたNOが、遅発性筋痛のコントロールを行っているのではないかという考えのもと研究を進めてきた。プロスタグランジンE2(PGE2)は、アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase:COX)により合成される。PEE2の合成関連酵素であるCOXにはCOX-1とC0X-2の存在が知られており、COX-1は生体内の大部分に恒常的に存在している。またCOX-2は炎症性刺激によりマクロファージなどから合成され、NO生成に関与するiN0Sとの関連も大きい。そこで、筋損傷によるPGE2の変化はこのCOX-2を通じて影響を受けていると考えた。PGE2にはR1~R4の4つの受容体が存在し、R2は痛覚過敏に関係する受容体であるため、その動態を観察した。一方、セロトニン(Serotonin:5-HT)は消化管、血小板、中枢神経系に存在し炎症時において重要な役割を演じ、痛みを増強することが知られている。セロトニンの数多くある受容体のうち2Aは痛覚制御に関連している。筋損傷3日後にNOタンパクの筋内発現がピークを迎えるが、COX-2、PGE2、PGE2R2、5-HT2AもNO同様に3日後にピークを迎え、NOと何らかの関連があると示唆された。しかし、PGE2R2、5-HT2Aは共に受容体であり、発痛物質産生への直接の関係を立証するには至らなかったが、受容体の発現が起こっていることから痛みや痛覚過敏へのトリガーとなることは十分に考えられる。しかし、本研究においてNOとCOX-2に関係について言及することは出来なかった。今後も、遅発性筋痛のメカニズムを、生理学的・分子生物学的にとらえた詳細な研究が必要と考えられる。
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