本邦において発育期のPWV(脈波伝播速度)と不定愁訴の関連性を課題とした論文・報告は見当たらない。発育期中学生の不定愁訴発現には、骨成長の時期と身長成長の時期(血管成長の時期)の「ずれ」が関与し、発育期の血管の弾性の低下とそれに伴う自律神経系調節の関与が気圧依存の血圧変化に影響を及ぼすとする仮説を立て、運動との関連性について研究を行うことを目的とした。発育期の中学生を対象に不定愁訴、血圧、身長、体重、脈波伝搬速度及び心臓自律神経系活動の測定を2年間継続してきた。これまでに中学生約500名における血管の硬化度(動脈スティフネス)、不定愁訴に関するアンケート調査を行い、運動の関連性について明らかにする分析を進めてきた。次の5課題の検証と相互の関連性についてまとめることを目標にして研究を継続中である。 (1)身長の伸びと血管弾性変化、(2)身長の伸びと自律神経系活動、(3)血管弾性の低下と不定愁訴の発現頻度変化、(4)気圧に依存する血圧変化、(5)不定愁訴に関するアンケート調査、(6)運動習慣に関するアンケート調査 対象者約500名の資料を横断的・縦断的に分析し、次のことが明らかになった。(1)二次性徴期にある男子の血圧、脈波伝播速度は、学年の進行に伴い上昇すること、(2)中学生女子の血圧、脈波伝播速度は、各学年間に差がないこと、(3)中学生男子の脈波伝播速度の増加に身長の伸び率が関与すること、(4)二次性徴期にある児童・生徒の肥満や血圧の高値が脈波伝播速度を増加させることを明らかにした。これらの分析から中学生の動脈スティフネス変化に性差が存在し、特に男子の身長の伸び率との関連が深く、成長期の生活習慣が動脈スティフネス変化に関連するものと考えられた。
|