教員養成課程における学生の動感(運動感覚、キネステーゼ)促発能力養成のために、文献研究より、指導者自らの運動感覚を分析する「創発分析能力」を基盤にした上で、動感促発のための「観察」、「交信」能力の養成を目指し、そこから「代行」、「処方」能力の養成に踏み込むことが構想された。なお、指導者の創発分析能力と代行能力の重要性については、それぞれ論文投稿と学会発表を行った。 次に前期の「器械運動」の授業で、学生の技能レベル向上に主眼を置いた教員主導の活動と、お互いに指導し合う活動を順次的に行い、技の実施のビデオ撮影とアンケートを実施した。その結果、技能レベル(創発達成能力)が高く、創発分析能力も高い学生は、他の学生に適確な動感言語の呈示(アドバイス)を行えるという典型的な例証を得ることができた。一方、技能レベルが高くても他者の学習に無関心な学生、自分の動感運動の発生に精一杯で他者の学習に目を向ける余裕がない学生等の例証を得ることで、現行の実技授業の成果と問題点が把握された。 これらを踏まえて後期の「器械運動」の授業で、学生同士で技の実施を観察させるとともに、お互いの運動について話し合い、教え合う活動を行い、自会の運動感覚、相手の運動の観察内容、話し合い、教え合いの内容を質問紙に記述させ、撮影したビデオ映像の分析と併せて、動感観察(相手の動感を感じ取る)と動感交信(動感意識の相互のやりとり)の様相を検討した。その結果、動感観察ができている者でも、話し合いや教え合いで動感交信が可能な者と、運動の外的経過に関するやりとりに終始している者とに分かれた。 以上の研究で、促発能力養成のプログラム作成に有益な例証を得ることができたのは意義深い。また、動感交信能力養成の方法論については検討を深める必要性が示唆された。
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