本研究は東洋的身体技法を体育教材として取り入れることの可能性と意味を提示しようとしている。そのために東洋的身体技法に含まれている個々の身体技法のエッセンスを抽出、簡略化し、段階的に再構成し、普通の体育教師ならば誰でも使えるように体育教材化しようとしている。 東洋的身体技法を「姿勢」「動き」「呼吸」「意識」の構成要素に分解し、再構成することによって体育教材化した。本年度は主に立ち方、座り方など姿勢に関するものから、対人技法に関するものを中心に作成した。それらに「やり方」「要点」「コツ」「注意点」等の項目を付して、わかりやすい言葉で表すと共に、映像データも加えた形で東洋的身体技法教材データベース暫定版Ver.1に集約した。 データベースに入力された内容を教材として用いて、一般体育授業や公開講座など初心者への指導場面において実際に指導を行い、その効果を検討した。受講者の授業評価、実習ノート、レポートなどを分析した結果、東洋的身体技法を教材化した体育授業の効果として以下の4つを認めることができた。「体や心に対する認識の変化」、「日常生活の良好な変化」、「自己克服力の向上」、「生活充実感、自己充実感の向上」。 それらの結果を踏まえて、体育における東洋的身体技法の教育的意味を氷山モデルを用いて検討した。さらに学生の自己認識の変化に着目して分析を行った結果、受講生達の自己認識には「わかり」と「気づき」というベクトルの異なる二つの認識傾向が抽出されたが、同時にそれらを統合しようとする認識作用のあることも判明した。 また、教材化した東洋的身体技法のうち、既に前年度までの実施でその効果が確認されている意識的呼吸法(円笑呼吸法)について、主に呼吸数の減少度、心への影響度(2次元気分尺度・TDMSを用いて)の観点からその効果を検証した。
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