研究概要 |
今日の我が国のボールゲーム指導は,欧米のボールゲーム指導の流れを受け,ボールを受けるための動きや判断を,ユニバーサルな技術として学習者全員に一斉指導する傾向がある.しかし,ボールゲームはそもそも個々のプレーヤーに与えられた役割が異なる「分業」に基づいている.そこで,攻防などの分業に基づき,先ずは個々のプレーヤーの負担を減じた上で,各プレーヤーが,それぞれの役割からゲームの理解を深めるボールゲームの授業を検討することを目的として研究を進めている. 本年度は,昨年度得られた女子中学生の授業データを,(1)ボールを持たない時の動きの変化,(2)ボールを持たない時の動きの必要性の実態,について検討した.その結果,役割付与を強く意識させるバスケットボールの授業を実施すると,動きそのものを指導しなくても,役割に必要な動きを学習者が発見するため,結果的に「ボールを持たないときの動き」が増加することがわかった.また,マンツーマンディフェンスが徹底されるわけではない授業内のゲームでは,ボールを受ける時に「動き」が必ずしも必要とはいえないことが判明した. また,高校生のサッカーにおいて,修正されたミニゲームを用いた短期間のトレーニングと,役割意識を強調してゲームを実践した場合とで比較実験を行ったところ,プレーヤーの運動有能感の変化に違いはなく,どちらも同じ程度に戦術的情況判断能(TDC)を上昇させる効果があることがわかった. したがって,本研究で提案している,分業に基づき,役割意識から必要な行為を発見させる戦術アプローチは,短期トレーニングの条件下では,近年,我が国で導入されつつある修正ゲームと同程度の効果を上げることがわかった.上記の結果は,分業に基づくボールゲームの戦術アプローチの有効性を示している.
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