足圧中心動揺の時系列データから推定される安静立位姿勢制御のフィードバック遅れ時間(FDT)は、標準的な重心動揺検査の項目である足圧中心の移動速度や移動面積などでは説明できない立位姿勢制御系の機能特性の指標として期待されている。FDTは必ずしも制御系の欠陥を意味するものではなく、むしろ、開ループ制御系の機能性の高さ、あるいは姿勢制御系の生理的なゆらぎを許容する「機能的あそび」を反映する可能性がある。 平成22年度はFDTの推定方法の比較を行うためにいくつかの方法で計算を試みた。しかし、自発性姿勢動揺制御の「戦略」に関わると推察されるラテラリティの問題が計第の過程で明らかになった。また、浮き趾(特に母指が接地していない状況)が足圧中心動揺に大きな影響を及ぼすことも明らかになった。 東日本大震災の影響で、参加予定であった日本発育発達学会第9回大会が平成23年度に延期されたため、研究費補助金の一部(同学会大会への参加のための旅費)を平成23年度に繰り越した。結局、大会は中止となり、研究報告は論文形式で「日本発育発達学会第9回大会記録集」に掲載された。日本発育発達学会第9回大会が中止となったため、旅費は日本体育学会第62回大会への参加のために使用した。これらの学会発表では学童野球の選手、高齢者(太極拳長期実践者と運動習慣のない健常者)を対象に測定した足圧中心動揺のデータの分析結果を報告した。 フィードバック遅れ時間はDetrended Fluctuation Analysisのスケーリング指数αのクロスオーバー・ポイントクロスオーバー・ポイントから推定することが可能であることが示唆された。また、加齢や疲労は足圧中心動揺をガウスノイズの方向にシフトさせ、トレーニング(運動習慣)は足圧中心動揺をブラウン運動の方向にシフトさせる傾向が示された。ラテラリティや浮き趾が足圧中心動揺のフラクタル性に影響を及ぼすことが明らかになったが、これらの要因の影響は相互複合的であり、個々の要因の影響を理解するためにはさらなる基礎的研究が不可欠である。
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