本研究の目的は一過性の心理的ストレッサーであるプレッシャーが運動スキル遂行時の心理,生理,行動的側面にどのような影響を及ぼすのかについて包括的に調べることであり,本年度においては,それらの影響を実験的に調べることであった。実験室実験で負荷されるプレッシャーの強度が比較的弱いことから,実験で用いた変数の選択は,実際の競技場面で負荷されるプレッシャー強度の下で生起する変化について,競技者から主観的報告を求めて調べる初年度と2年目の研究に基づいて行った。初年度は半構造化面接による質的研究を行い,2年目はその結果を反映させた質問紙調査を行った。それらの研究結果に基づき,本年度の実験においては心理指標として状態不安,生理指標として脈拍数,行動指標としてパフォーマンスおよび運動学的変数を測定した。実験では38名の実験参加者に非利き手による的を狙った下手投げ課題を行わせ,プリテスト(10試行),習得(120試行),ポストテスト(10試行),プレッシャーテスト(10試行)を行わせた。ポストテストからプレッシャーテストにかけて脈拍数は約6拍毎分上昇し,状態不安得点は約14点上昇したが,パフォーマンスとして測定した的に対する投球の正確性得点は,有意な変化を示さなかった。ポストテストからプレッシャーテストにかけての変化量においては,脈拍と正確性得点(r=.17),脈拍と状態不安得点(r=.19)は弱い正の相関を示したが,状態不安得点と正確性得点は有意な相関を示さなかった。
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