運動中に活動筋で産生された乳酸は、エネルギー源として有効に利用できることが明らかになっている。高強度運動後の回復運動では乳酸利用が亢進することから、本研究では、この運動をトレーニングすることにより運動中の乳酸利用能力が改善され、運動パフォーマンスにも影響を与えるという仮説を立てている。健康な成人男子を、1)高強度運動後に引き続き回復運動、2)高強度運動のみ、3)回復運動(低強度)のみの3つのトレーニング群に分けて、それぞれの運動を週4回、6週間にわたり、トレーニングを実施させている。トレーニング前の測定において、120%VO_2peakの疲労困憊までの自転車運動を、30分間の間隔で2回繰り返す実験運動を次の2条件で行わせた。1つは、30分間を安静にしている安静試行、他方は血中乳酸濃度が上昇しない回復運動を行う回復運動試行であった。30分の間に血中乳酸濃度を測定し、回復動態を非線形モデルにあてはめ、血中乳酸の回復速度(定数r1、r2)を計測した。また、120%VO_2peak運動の運動持続時間を計測し、1回目に対する2回目の変化率を求めた。血中乳酸濃度の回復速度はr1、r2ともに、回復運動中のほうが有意に速い値であり、運動持続時間の変化率との間に有意な正の相関関係が認められた。すなわち、血中乳酸濃度の消失が速いほど、2回目のパフォーマンスの低下が少ない、あるいは向上する傾向にあった。このような傾向は安静試行では認められなかったことから、運動中に血中乳酸を利用できることが、パフォーマンスにとって有利であることが示唆され、本研究の仮説を支持するものである. トレーニング実験は3つのトレーニング群についてそれぞれ、2名ずつ計6名終了した。現在トレーニング実験終了者を群6名になるように継続している。本研究のトレーニングによって乳酸利用能力が向上することが示されれば、スポーツ選手のトレーニング方法として発展させることができる。
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