【実施した研究の内容】本研究は、ブランデージ時代のオリンピック・ムーブメントの変容を「多様性に向けた変容」であると位置づけ、A.人種差別問題、B.女性の参画、C.自然環境保護問題、という3つの観点から明らかにすることを目的としている。平成22年度は(1)IOC文書史料館において昨年度収集したIOC総会およびIOC理事会議事録を中心とする分析、(2)IOC文書史料館における公刊されないレベルの史料の調査・収集の継続(昨年度からの継続)を行った。 【研究の結果】上記(1)によって、3つの観点に関するIOC総会およびIOC理事会における審議の実態を明らかにすることができた。上記(2)の分析結果によって、観点Bに関連して1970年前後に行われた性別確認検査導入の是非を問う議論の詳細と導入に至る経緯が新たに明らかになった。この議論と検査導入経緯の背景には、国際的政治情勢等へのオリンピックの社会的影響力(ないし政治によるスポーツの利用)が増したと同時に、スポーツと医学の親和性の強化があったことが示唆された。検査の導入によって、当時の医学界でさえ種々の議論があった「性別」の境界をスポーツ界が独自に設定し、ルール化を図るという状況が生み出されたが、これを可能にしたスポーツ界の論理は、競技の公平・公正であったが、検査の導入や具体的方法を決定する際の判断には、ブランデージをはじめとするIOC委員の強固なジェンダー観が介在していたことが明らかになった。 【研究成果の意義と重要性】今年度の研究により、3つの観点について、IOCにおける議論の状況を俯瞰する基礎資料を作成することができた。性別確認検査に関しては、国際的な競技界におけるドーピング検査と同時期の導入でありながら、歴史研究においてはほとんど着目されてこなかった。公刊・非公刊双方の史料を用いてこれを明らかにした点が重要である。
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