器械体操運動においては、倒立をはじめとして全体重を腕で支える局面が多いことから、腕や肩の大きな力発揮が必要とされる。一方、採点競技である器械体操競技においてはより雄大に見える動きが重要であり、肩などの柔軟性も必要とされる。すなわち器械体操運動において肩関節は強靭さと柔軟性というある意味で相反する特性を併せ持たなければならない。これまで、スポーツ・パフォーマンスの分析で「肩関節」の3次元運動解析は頻繁に行われてきたが、肩甲骨(上肢帯)を含めた「肩複合体」としての機能は明らかになっていない。本研究では、強靭さと柔軟性という両特性を必要とする器械体操運動における肩の運動に注目し、「肩関節」の運動を「肩甲胸郭関節」の運動と「肩甲上腕関節」の運動に分離して検討する。 2009年度はまず体操競技の中でも比較的単純な運動である平行棒のスイングについて肩甲骨の動きを観察した。男子体操競技選手4名のスイング動作各3往復を対象として、電磁ゴニオメータを用いていわゆる「肩関節」の屈曲-伸展角度と肩甲骨の前傾-後傾角度の変化を矢状面内で求めた。 スイング動作中、背面支持期においての「肩関節」の伸展角度に差がみられた。また同時に肩甲骨の前傾角度にも差がみられた。正面支持期においての「肩関節」の屈曲角度にも差がみられた。一方、同じ時期における肩甲骨の前傾角度には、背面支持期ほど被験者間に大きな差はみられなかった。スイング動作の背面支持期において「肩関節」の伸展角度が大きい傾向が認められる競技力の高い被検者ほど肩甲骨の前傾角度が大きく、競技力の向上に「肩複合体」の機能がしめる重要性がうかがわれた。
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