器械体操運動においては、倒立をはじめとして全体重を腕で支える局面が多いことから、腕や肩の大きな力発揮が必要とされる。一方、採点競技である器械体操競技においてはより雄大に見える動きが重要であり、肩などの柔軟性も必要とされる。すなわち器械体操運動において肩関節は強靭さと柔軟性というある意味で相反する特性を併せ持たなければならない。これまで、スポーツ・パフォーマンスの分析で「肩関節」の3次元運動解析は頻繁に行われてきたが、肩甲骨(上肢帯)を含めた「肩複合体」としての機能は明らかになっていない。本研究では、強靭さと柔軟性という両特性を必要とする器械体操運動における肩の運動に注目し、「肩関節」の運動を「肩甲胸郭関節」の運動と「肩甲上腕関節」の運動に分離して検討する。 2009年度に対象とした平行棒のスイング動作に続き、2010年度では平行棒上での倒立動作を対象として肩甲骨の動きを観察した。この際に、体表にマーカを貼付しビデオ分析を行った。男子体操競技選手4名の倒立動作について、いわゆる「肩関節」の角度と肩甲骨の方向角を求めた。すなわち、「肩関節」については屈曲-伸展角度などを、また肩甲骨に関しては前傾-後傾角度などを求めた。 これまで行ってきたスイング動作とは異なり、倒立において上腕部はほぼ完全に挙上され、「肩関節」の伸展角度は180度となる。この時「肩関節」の水平内転-水平外転角度は定義できない肢位となる。人体の関節の中で最も可動域の広い肩関節の動きを分析する際には、このような肢位の取り扱いをどうするか、検討することの重要性が改めて示唆された。
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