倒立をはじめとした器械体操運動においては、全体重を腕で支える局面が多いことから、腕や肩の大きな力発揮が必要とされる。一方、採点競技である器械体操運動においてはより雄大に見える動きが重要であり、肩などの柔軟性も必要とされる。本研究では、強靭さと柔軟性という両特性を必要とする器械体操運動における肩の運動に注目した。「肩関節」の運動を「肩甲胸郭関節」の運動と「肩甲上腕関節」の運動に分離して検討することを試みた。また、オイラー角、解剖学的平面への投影法など、いくつかの方法を用いた肩の角度の表示法の比較検討を行った。 大学生男子体操競技選手4名を対象とし、平行棒上でのスイング動作について実験を行なった。肩複合体の「肩甲胸郭関節」、「肩甲上腕関節」、さらに広義の「肩関節角度」について、スイング動作中のそれぞれの角度の変化を求め、競技レベルとの関連で比較・考察した。肩甲骨の前傾角度と肩関節の伸展角度との間には密接な関係があり、しかも競技レベルの高い者ほどスイング動作における肩の可動域が大きかった。 次に17名の男子体操競技選手の鉄棒における「後方伸身2回宙返り2回ひねり下り」を分析した。競技成績の高い選手は、離手直前の「あふり」と呼ばれる動作において肩関節を素早く伸展させ、系(身体+鉄棒)全体のエネルギーを増大させており、それによりリリース時に大きな角運動量をもったまま空中に飛び出すことが可能となることがわかった。
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