研究概要 |
本年度は最終年度であり,昨年までの成果で不足している部分の補充を行い,これまでの成果の一部をまとめ海外(USA)での学会発表を行った。成長期雄ラットにドーピング規制薬物(アドレナリン受容体作動薬)のクレンブテロールの光学異性体を投与して筋肥大を誘導し核内調節因子に影響を及ぼすことが予測される因子(IGF-1・IGF-2など)や未分化幹細胞関連因子(Pax3・Pax7・Notch1など)や蛋白合成と分解に関連する因子(wwp1など)のmRNA量をqRT-PCR法により解析し,その作用機序の解明に取り組んだ。また,薬物は遺伝子多型(SNP)により効果が異なるため,原因となる因子群のSNPの検討を行った。 その結果,筋肥大を誘導するアドレナリン受容体作動薬のクレンブテロールの鏡像異性体の(+)-S-体と(-)-R-体は速筋モデルの長指伸筋(EDL)と遅筋モデルのヒラメ筋(SOL)に対して,どちらも作用するが,その原因と考えられる因子群の発現は一定で無く異なる事を明らかにした。蛋白分解に関与するwwp1はSOLにおいて(-)LR-体で有意な減少が,EDLでは(+)-S-体と(-)-R-体ともに有意な減少が見られた。IGF-1ではEDLにおいて(-)-R-体で有意な増加,IGF-2ではSOLにおいて(+)-S-体で有意な増加が観察された。細胞分化に関わるPax3ではSOLにおいて(-)-R-体で有意な増加,Pax7ではEDLにおいて(+)-S-体で有意な増加,Notch1ではSOLにおいて(+)-S-体で有意な増加が観察された。このようにアドレナリン受容体作動薬の鏡像異性体が筋肥大関連因子群の遺伝子発現でそれぞれ異なる作用を示す事が,速筋と遅筋の筋肥大で異なる事の一因であることが明らかとなった。 本結果は,多くの薬物がラセミ体として使用された場合の副作用発生の危険性を除外し,有効かつ安全に使用するために必要な資料となるものであり,安全な薬物使用のためには,単なるパフォーマンス向上を狙った安易な使用を防止する上で社会的にも意義あるものである。今回これらの因子群のSNPでの影響も一部検討したが時間と予算が不足し,今後の検討課題とした。
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