研究概要 |
3つ玉ジャグリング(3BJUG)は,両手を協調的に動かしてボールを扱うことが必要不可欠な難易度の高い動作である.加えて筋出力を微妙にコントロールし,ボールの投げ上げの高さや方向を一定にしなければ継続することができず,視覚や運動感覚のフィードバックを随時取り入れながら動作を微調整する必要がある.3BJUGのモデル映像提示の動作イメージ想起への影響について,課題動作を習得していない右利きの健常成人(non-trained群:NT群),および課題動作を習得している右利き健常成人(well-trained群:WT群),それぞれ10名を対象として以下の実験を行った.まず,3BJUGのモデル映像を液晶プロジェクターでのスクリーンに映写する.被験者はスクリーンから約3mの位置に設置した実験用リクライニングシートに座り,両手を回内位に保持する.表面電極を,右第1背側骨間筋(FDI),右短母指外転筋,右小指外転筋に添付し筋電位を増幅した.左半球の右手指支配領域の一次運動野を磁気刺激装置に連結した8字コイルを用いて,これらの筋から運動誘発電位(MEP)を導出した.刺激強度は安静FDIから1mV程度の振幅のMEPが誘発できる強度とした.実験条件として,(1)安静コントロール,(1)3BJUG映像を見ながらの動作イメージ想起,(3)ボールを扱わない3BJUGの疑似動作映像を見ながらの動作イメージ想起,(4)映像無しでの動作イメージ想起,(5)3BJUG映像の観察をランダムに実施した,各条件30秒程度行い,5~6秒毎に5発程度のMEPを誘発・記録し,これを2ブロック繰り返した.その結果,WT群では条件(1)に比較して条件(3)において有意にMEPが増大したが,NT群では逆に条件(3)に比較して条件(1)において有意にMEPが増大した.また両群とも条件(2)(5)ではMEPに有意な変化は認められなかった.また,筋種間による差異は見られなかった.課題動作を習得済のWT群では脳内に動作プログラムが既に存在しており,条件(1)ではかえってイメージ想起を妨げられることが考えられる.一方,NT群では脳内に動作プログラムは存在せず,条件(1)によってイメージ想起が促進されたものと考えられる.これらの結果は,初心者の複雑動作学習におけるモデル映像提示効果の可能性を示すものであると考えられる
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